サッカー・メディアの言葉

例年なら6月は、フットボールのお休み期間。試合がないと、1週間の生活リズムも変わってしまう。でも今年2019年は、その暇な月にフットボールが目白押し。トゥーロン、U20、女子W杯、コパも始まった。加えて、Jリーグも見るようになった(ハイライト動画だけど)。これまでそんなに注目してこなかったのに、このブログを始めてから結構見ている。それから久保フィーバー。信じられないというか・・・。まあ、少し先まで待ってみようというのが正直なところ。フィーバーを作っているのはもちろん日本のメディア。はしゃぎすぎで、もうリーガの中心選手になったような雰囲気。逆から考えれば、そうした選手がいなかったことと、そうした選手の登場を望んでいるためで、相変わらず、向こうのちょっとした言葉使いを大げさに見出しで使う。例えば、バルサのビダルが「レアル・マドリーが獲得するような本当に質の高い選手だ。」と発言したことを中心に、最後は「近い将来、ラ・リーガでも対戦するであろう日本の18歳のホープに敬意を示したビダル。」と締める(sport.es)。コパのメディア・カンファレンスでの発言ということだが、記事を書いた記者が直接聞いていたものなのか、通訳してもらったものなのか、スペイン語のニュアンスは伝わってこない。最初に記事の方向は決まっていると見えるのだ。リーガで活躍するだろう選手という前提があり、発言を日本の文脈に合わせてまとめる。その表現法が透けて見える。日本のサッカーメディアの未熟さではないのか。もちろん、海外にも似たような記事はある。ただ、別にきちっと現実を見る記事も多い。スペイン語のできるセルジオ越後をレポーターとして送り込んで欲しかった。
こんなことを書く予定ではなかった。メディアのフェイクめいた記事を見るとつい書きたくなるので書いてしまったが、カタールとパラグアイの一戦を見れば、南米のフットボール界がアジアをちょっと小馬鹿にしている感じがした(カタールの最初のシュートは見事だったが)。日本とチリもそうだろう。負けようが勝とうが、日本メディアでは久保が活躍すればよいのかもしれない。とすれば、森保監督は、チームで戦うなどと言わずに、露骨に久保中心のチームにしたらどうなのか。なんせ、レアルの久保なのだ。何とかやってくれるだろう。そしてぼろ負けしたら、どのような記事になるのか。大体は想像がつくが。
メディアの問題は言葉だと思う。欧米には、物事を観察し、それをなるべく客観的に、そして具体的に言葉で綴ろうという文章作法がある。「デスクリプション」(描写、叙述に近い)と言われる。試合の経過を事細かく描写する。日本は短文思考(俳句が典型的だが、SNSにはフィットしやすい表現法なので、世界の先頭を走っているかもしれない)なので、欧米の文章は少しうっとうしく感じる。試合翌日の新聞の試合レポート記事はすごく長く、読むのにものすごく時間がかかってしまう。昔、フランスにいたときに苦労したことだ。 この「デスクリプション的」記述はSNS時代に入った21世紀ではあまり受けないようだが、うっとうしいと思われても、ぼくは全面SNS的表現には反対だ。単純化は悪くはないが、といって、誤解を生み、それはポピュリズムにもつながっていく。やっぱり、どこかにしっかりした言葉の論理と、物事を丁寧にしっかり表現することは必要なのだ。そこでは文章は自然長くなる、ならざるを得ない。しかし、日本のスポーツメディアは、その論理が薄いところで成立してきたし、している。と言うより、SNS時代の前から、短文主義、見出し主義が中心だったように思う。だから報道された記事の忘却期間も短くなる。久保もかわいそうなことにならなければいいが。短文主義は持続しない。論理性は持続する。このブログも、論理があるかどうかは自分ではわからないが、そうした意味で書いている。うっとうしいと思われるだろうな〜と思いながら。
コパ・アメリカではウルグアイを応援している。現在のウルグアイのナショナル・チームは、これまでの好みの最上位である。当然、1回戦は完勝。優勝してほしい。アルゼンチンも好きだが、いろんな要因が重なっているようで、このところなかなかうまくいかない。一度、メッシなしでやってみたらどうなのか。十分に立派なチームを作ることができるはずだ。そして、もう一度、ビエルサに委ねてみよう!栄光には届かないかもしれないが、フットボールの真の情熱をぼくたちも味わえるかもしれない。
こんなことを考えながら、6月のフットボールを楽しんでいる。コパの決勝戦はウルグアイとアルゼンチンになってほしいが、そうなったら、朝からビールも飲むことにしよう。
*上の写真は1914年刊(フランス、ラ・フィット出版) の『フットボール』という歴史と競技マニュアルを解説した本の挿絵。

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