投稿

4月, 2019の投稿を表示しています

リリアン・テュラムのこと

イメージ
このブログの2回目は、1998年から2002年までのフランス代表チームのDFリリアン・テュラムのことである。フランスW杯の後方から駆け上がってネットを揺らしたシーンは今でも覚えている。でも、ここで書くのは、選手としてのテュラムのことではない。ウィキの紹介では、ニックネームに「鉄人」とある。確かに、すごく知的な選手だった。そのテュラムの名前を、選手引退後久しぶりに目にしたのは、ある展覧会でのことだった。ちょうど、パリに滞在していた時期で、ポスターを見て面白そうだなと思い、会場の世界民族芸術博物館ケ・ブランリーに行ったのだった。もう10年近く前のことだ。その会場のポスターにあのテュラムが写っているではないか。感激したので、そのことは数年前までまでやっていたFrench Libraryという日記ブログにも書いた(休み中で中止してはいない。雑記などはまた再開するつもりだ)。その文章を引用しておきたい(誤植は訂正して)。 テュラムはもともと知的な(サッカー以外のことに興味をもつ、と言う意味で)人間だった。ある雑誌でインタビューを読んだときに驚いた。そして引退後、人種差別をなくすための基金を創設した。 そのテュラムが展覧会を組織した「野生(野蛮)の発明」(L'invention du sauvage)。場所はケ・ブランリー(世界民族博物館と言うのか)。ジャン・ヌーベルの建物も話題になった博物館である。そこでテュラムは、啓蒙の時代から20世紀前半にかけて、西洋がどのように「野生」あるいは「野蛮」という概念とイメージをつくりだしたのかの歴史を、展覧会として組織したのだ。パスカル・ブランシャールというアフリカ研究者と一緒に。見応えのある展覧会だった。その年の一番といってもいい。アフリカを中心にアジア、ラテン・アメリカ、北米アメリカのさまざまな民族、部族が、万博の民族館、フォリー・ベルジェール等のキャバレー、「植民地展」といった、欧米のスペクタクルの場に「出品」され、西洋とは「異なった人間」として輪郭化されていったのかが、しっかりと展示されていた。ポスト・コロニアル」という研究概念のひとつの展示化だといえば簡単だが、研究ギョウカイにおけるそれは、ぼくの目からは依然として、他者を言説化する、その意識に自覚的ではないとみえる。といって、展覧会はサイードの「オリエンタリ

どうしてこんなブログを始めるのか、そしてマルセロ・ビエルサのこと

イメージ
開始 フットボール(サッカー)のことを書きたくてブログを始めることにした。目的はひとつ。日本でのフットボールの情報(特に欧州の)が偏っていることに不満があって、フットボールが日本で語られるよりずっと大きな世界であることを言いたいためだ。もちろん、個人的に好きなチームや監督・選手についての感想も書きたいと思う。 ぼくがフットボール世界の大きさにびっくりしたのは、1998年のフランスでのW杯の頃だった。日本の初参加した大会である。現在とは違って、ものすごく感激した。それ以後の日本代表にも関心はあるが、あの時ほどの熱はない。実際、多くの選手が欧州に移籍したが、それほどレベルが上がっているとは思ってない。まだフットボールという世界観が根付いていないと感じる。まだまだ時間がかかるのだろう。 そのW杯で感激したのは、日本代表のナイーヴなひたむきさや決勝でのジダンのヘッドだけのことではない。ル・モンド・ディプロマティークというフランスの左派系月刊誌(元々は有名なル・モンドのサブ・ジャーナルで世界で発行されている)がW杯を記念して「フットボールと政治的情熱」という特集号を出版した(5-6月合併号)その雑誌に驚いたのだ。内容は、<国際化の問題>、<世界の熱狂>、<政治的緊張感の反映>、<儀式・暴力・社会>の4つの章に分かれ、32人のジャーナリストと学者が記事を寄せたものである。それまで、Jリーグブームに浮かれ、芸能界を楽しむようにサッカーを見ていたぼくにはかなりの驚きだった。その特集号をまとめたイグナシオ・ラモネ(スペイン生まれの有名なジャーナリストでフランスを中心に活躍、ATTACというか新しい社会運動の組織者でもある)は、冒頭の論説の最後にこんなことを書いている。「フットボールは単なる遊びのひとつでない。それは社会全体の現実である。なぜなら、フットボールを構成するすべてーそこに現象する遊戯、社会、政治、文化、テクノロジーといったものを分析することで、現在の社会の基本的価値、そして矛盾をよりよく読み解くことができるからである。」と。経済学者のミシェル・カヤの「危険なスポーツ主義」人類学者でジャーナリストでもあるイヴァン・ボロヴィッチの「ユーゴスラビアのスタジアムでの暴力」、クリスティアン・ド・ブリ「アフリカのフットボール」などの記事が印象に残っている。見開き2ページの短い