移籍、あるいは海外でプレーするすること1

CLはやっぱり・・・。細かいところはわからないが、プロフェッショナルな試合だったと感じた。面白くなかったという人も多いが、チャンピオンになるための練りに練った戦術、それを理解しプレーする選手たち。トップレベルの本当の大一番はそういうことだろうね。そこでトッテナムがちょっとだけ負けていたのかもしれないと思う。でも、高度な試合だった。惜しむらくは、ルーカスとジョレンテの投入が遅かった気もするけど。こんなマッチレポートを書くのが目的ではないので、別の話題にしよう。
今回はサッカー選手(サッカーと書くときは日本のことを想定する)たちの移籍について。と言っても、メルカート的な話ではなく、移籍って何かを考えてみたい、という意味での移籍の話。
フットボールのレギュラー・シーズンが終わったあとは、どこでも移籍の話。メディアにとってはこれしか書くことないからだろう。シーズン中のガセ的ニュースは、真夏に向かって信憑性が増してくる。ぼくの閲覧している、イギリスとフランスのサイトで、日本のサッカー選手が大きな話題になることはほとんどない。ビッグクラブに行って欲しいというぼくたちの願望が、向こうの1行記事をトップ記事のように扱う日本のメディア。といって、今のところ日本選手のビッグな移籍ディールはない。
こんな季節、移籍というそのこと自体にも興味が湧いてくる。移籍というと、選手のステップアップのために欧州のクラブに渡ることが中心になっているが、移籍の問題はずっと広くて深い。グローバルな21世紀の世界では、金、情報、知識が飛び交うだけでなく、人も動いている。ひとつの国に閉じていることなどできないのだ。もちろん、国や地域によって程度の差はあるが、金融と情報の資本主義で回転するこの世紀は、人の移動の世紀でもある。移籍を、この移動という観点から見たいのだ。実際、この閉鎖的な日本でも、人は動いている。高校卒業後、アメリカや欧州の大学に進学する若者も少なくない(その量的調査を探したが見つからないので、個人的経験からの推測だが)し、国内の就活ではなく、海外へと仕事を求める人たちもいる(このところの日本の就職率の高さで、海外志向は減ったかもしれない)。実は、サッカー選手も同じなのだ。メディアで報じられることは少ないが、日本人選手(男子)は世界中でフットボールをやっている。このことがわかったのは、移籍を考えることになってからだが、ともかく、ぼくの想像以上の人数で、何かホッとしたのだった。ここで日本人サッカー選手と書いているのは、日本国内でサッカー経験があり、日本の文化的バックボーン(生粋の日本人の意味ではない)を持つ選手のことである。
まず、数字を見てみよう。資料はWikiの「日本国外のリーグに所属する日本人サッカー選手一覧」(そのデータ元がどこなのか知りたいのだが、ウィキラー自身が調べたということならたいしたものだ)。まず、欧州5大リーグにいる日本人選手は20人ほど(2部リーグまで、ユースは除いた)。ちなみにフットボール大国のフランスは100人近く(maxfoot.frより)。世界中ではどうかといえば、Wikiで数えると、なんと260人。
もう一つ、スイスに本部を置くフットボール調査会社CIESの調査から(www.football-observaotry.com)。2019年現在、自国以外の国のリーグに属している選手は1位ブラジルの1330人、2位がフランスで867人、3位がアルゼンチンの820人となっている。日本は世界の中の30番目で160人とのこと。日本語Wikiの数字と違うが(データの取り方の差だろう。数字の根拠をもう少し調べることにしよう)、CIESは各国のフットボール協会登録者の数字。ともかく、フットボールの成熟度からすれば、海外でプレーする日本人選手数は想像以上である。
さて、5大リーグ。それがどうだということはないが、ビッグクラブに日本選手はほぼいないので、メルカート・ニュースに上がってくることもなくなる。一人ぐらいは海外メディアを賑わせて欲しいものだ。こんなことを考えている日本のフットボールファンは多いと思う。日本の海外選手情報はSOCCER TRANSITION-Made in JAPANというサイト(個人ブログ)に面白い情報があるので、興味のある方はどうぞ。
海外の日本人選手をネットでチェックしていて驚いたのは、繰り返すが、海外でプレーしている選手が多いということだ。プレーしていない国の方が少ないくらいに見える。例えば、バルト3国の小国ラトビアでも1、2部含めて8人もプレーしている(これはWiki)。今年に入って、日本も含めて世界を渡り歩いている瀬戸貴幸も加入している。こうした小国での日本人のニュースはほとんど目にしない(あるのかもしれないが、目が届かない)。記事にして欲しいと思っているのは、日本人選手だからでなく、フットボールが若い人のグローバルな職業的移動に関わっていること、それが新しい世界像の一つになると思っているからだ。特に閉鎖的忖度ムードの日本では重要だと思う。
日本メディアで取り上げられるのは、欧米のビッグ5と、オランダやポルトガルなどの第2グループへの移籍のことがほとんどだ。海外組というのはこうした国のチームに移籍した選手のことを言うようだ。ニュース・バリューからしたら仕方ないだろうが、ぼくには、そうしたフットボール大・中の国々のクラブへ移籍する選手たちの意識が少し気になる。目線がいつも日本、それも日本代表だけであるような感じがしてしまうからだ。シーズンが終わるとすぐに帰国。現地でも日本人日本人している。仕方ないか。イギリスやドイツには、多くの日本人記者やサッカー・ライター(嘱託も多いと思う)がいて、試合終了後、日本人選手を囲んでのインタビューを行うらしい(MLSも同じだが)。サウサンプトンの吉田のように英語で受け答えする選手はかなり少ない。イギリスでもドイツでもスペインでも、日本人選手は「日本人」をやっているのだ。ダメとは言わないが、やっぱり現地の記者に囲まれて欲しい。現地記者には場違いだと感じる者も少ないだろうが、欧州の日本への特殊な眼差しに助けられていると想像する(欧米の日本観は、残念ながらマルコ・ポーロ以来変わっていないように感じている)。
外国で仕事をするというのは、厳しいけど、その国に馴染むことだ。言葉をおぼえ文化に慣れ友達を作り恋もする、つまり生活することだと思っている。でも、日本の海外組の頭の中は日本代表が中心のような気がする。選手にとっては重要だけど、それだけではないだろう。昔、レアルのボランチで大活躍したアルゼンチン出身のフェルナンド・レドンドが代表監督の方針と衝突し代表を辞退したことが思い出される(ちなみにビエルサの招集には応じたらしい)。フットボールはチームプレーだが、個が前面に出るものでもある。「ぼくはこうするという、自分の確固たる構えを持つこと」、それがフットボーラーというものではないか。
日本の海外組はもっとフットボール選手としての矜恃、つまり、自分のプレーヤーとし人間としてのプライドを持って欲しい。技術面だけのことではなく、海外でプレーすることは、代表に選ばれることとは別の人間的豊かさがあると思うからだ。現在の海外組の視線は、昔の海外に赴任したモーレツ社員たちの「日本本社」目線と重なる。いつも本社に帰ることを頭に置いている。だから、赴任家族たちは日本人社会を築き、現地の人たちと距離を取る。これでは、どうして海外にいるのかわからなくなる。海外組からはこんなことも感じてしまう。帰国すれば芸能タレント的サッカー選手になる機会も少なくない。海外移籍とは、そんなことなのだろうか。でも、世界は変わってきたのだ。
ともかく、多くの日本人選手が海外でプレーしている。世界を見れば、選手の自国離れは増加している(先のCIESによる)。
この現象は何なのか?分析するのは難しいが、フットボールは世界での一つの職種となっているということではないか。フットボールに関わる人数は、世界では膨大だとと想像する。その仕事には、国籍はあまり関係ないように見える。語学さえできれば、就活は可能なのだ。金融テクノロジーの仕事に世界から人が集まってくるように、フットボールにも世界から人が集まってくるのだ。
一人のサッカー選手が海外を志向する。もちろん、欧州のビッグクラブは頭にあるだろうが、現在の日本人のレベル(技術だけでなく海外フィット能力)を考えれば、ここは厳しい。でも、ビッグ・クラブでなくてもいいではないか。海外で選手をする。その経験は、それぞれに大きな財産となると思う。その体験は日本のサッカー界に還元されるだろう。JAFであれば、そのことを考えているだろうと期待する。
ともかく、海外でフットボールをしたいという若者に世界は開いている。トライアウトはどこでもやっている。Jリーグでは引っかからなかったが、もう少しレベルの低い国なら就活は成功するかもしれない。フットボール世界の力と金のヒエラルキーは厳然とある。でも、フットボールには、それを超えた魅力があるのだ。だから海外でプレーしたいと思うのではいか。その上、グローバルだ。日本の会社員の海外赴任とは違う。背負うのはただ実力という現実。苦労はあるだろうが、才能(就職先のチームにとって)があると思われれば、あるいは才能が伸びていけば、プレーできる可能性は生まれてくるだろう。そして移籍も可能かもしれない。もちろん、続けられるかどうかは、才能と運に関わる。ただ、まったく違う文化の中でプレーすることは、すごく重要だと思う。
この海外移籍、選手の移動の問題はまだまだ深い。もう少し調査してから、また書くことにしよう。そして、無名の「海外組」の情報をチェックしようとも思う。興味ないかもしれないが、お楽しみに。

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