映画の中のフットボール

18−19シーズンのCL準決勝2試合はすごかった。プレミア2チームへの賞賛報道があふれているので、チェックしすぎて疲れた。フットボールの面白さを堪能させてくれた。プレミアファンなのでいっそうだ。祝杯をあげたかったが、daznの見逃し配信で午前中に見るので、赤ワインを一杯飲んだ「感じ」だけ。6月の決勝はどうなるのか。ぼくとしてはスパーズを応援したい。なにせ、ポチェッティーノはビエルサの愛弟子なのだ。
さて、この3回目はタイトル通りに映画とフットボールのことを書こうと思う。といっても、記録的映画でもヒーローストーリーでもない。フットボールが映画の味付けになっている、そうした映画についてだ。
最初に思い出すのは、旧ユーゴスラビア、サラエボ出身の、稀代の名監督エミール・クストリッツァの名作『パパは出張中』と『黒猫・白猫』である。もちろん、ドキュメンタリー『マラドーナ』も。ただこれはサッカー映画なので外す。二つの映画は、社会主義時代のこのバルカンの大国がフットボールの国だったことが随所に暗示されている。『パパは出張中』の冒頭、出張と言いながら愛人に会いに行った帰りの列車の中(こんな出だしだったと思うが、見たのが大昔、1986年のことなので間違っているかもしれない)、フットボールの中継ラジオ放送が流れているし、他にもそんな場面がある。日本で野球中継がドラマに流れるといったことだが、旧ユーゴスラビア(分裂した各国にも)に愛着があるので、ラジオのシーンが印象的だったのだ。バルカン半島の日常生活はいつもフットボールがあるんだなーと改めて思ったのだった。2番目の作品はドタバタ喜劇の傑作『黒猫・白猫』。そこにもフットボールの場面が出てきた(ように思う)。これも昔の記憶なので、もう一度、DVDを借りて確かめてみよう。バルカン半島諸国だけではないが、欧州の日常にはどこでもフットボールがある。映画はそうした情景をさりげなく挟むし、その情景を映画の主題とすることもある。クストリッツァの映画がそうなのだ。そうそう、エミール・クストリッツァ自身にどこかフットボール的な情熱があるようにも感じてきた。彼はロックバンドも立ち上げたのだが、そのパンク的バンド、「ノー・スモーキング・オーケストラ」にはフットボール的リズムと情熱があるように感じた。
次はイギリス。フットボールの母国は当然、日常にフットボールがある。英国映画で一番好きな作品のひとつは、ぼくの好きな監督ケン・ローチの『エリックを探して』。制作総指揮官は何とエリック・カントナである。マイノリティーに優しい眼差しを示してきた社会派の名監督ケン・ローチが描く、ダメ中年郵便配達夫、エリック(カントナと同名)の心の復活物語である。カントナも実際に登場!して(幻想の中で)主人公エリックの支えとなるのだ。この不世出の大フットボーラーが愛される理由もわかる。単にマンUでの活躍だけではないのだ。イギリス映画お得意の人生コメディー(「お笑い」という意味ではない)は、フットボールが人間の心のエネルギーであることを語っている。
もうひとつの好きな英国映画は、マーク・ハマー監督(名作『ブラス』も彼)の『シーズンチケット』。ニューカッスルに住む貧しい少年二人が夢のシーズンチケットを買おうと(実現しないが)苦労する、こちらも人生コメディーである。廃れゆく炭鉱工業都市ニューカッスル(現在は復活したようだ)の誇りはセント・ジェームス・パークのニューカッスル・ユナイテッド。アラン・シアラー擁する時代の話である。映画にもシアラーが登場。この映画を見てからニューカッスルは贔屓のチームのひとつになった。加えて、ラファエル・ベニテスが監督だ。レアルで失敗したと言われるが、彼も誠実な監督だと思っているし、監督としての手腕も申し分ないと思う。今シーズン(18−19)も手薄な持ち駒できちっと残留を勝ち取った。人間の誠実さは、現在のフットボール界ではなかなか日の目を見ないだろう。それはビジネスと政治にはちょっとした障害になる。自己プライドの強すぎるプレーヤーに対してもだろう。
最後は『明日へのチケット』(DVDで視聴)。エルマンノ・オルミ、アッパス・キアロスタミ、ケン・ローチという巨匠3人のオムニバス映画だである。ローマ行きの列車内を舞台に3つの人生が語られる。ケン・ローチが担当する3番目のエピソードがフットボールのモティーフ。CLの準々決勝のためにローマへ向かう列車に乗り込んだ 3人のセルティック・ファンの少年(青年?)が車内で繰り広げるドタバタ喜劇。鉄道列車はフットボールに似合う。『エリックを探して』と同じようにケン・ローチのフットボール観は深くて優しい!フットボールが人間そのものにつながっているからだ。
世界をもっと広く見てみれば、フットボールと関係する映画はまだまだあると思う。単純エンターテイメントではなく(こちらも面白いものはある)哲学を持つ映画が。これからも探していきたい。

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